日本代表が臨んだコンフェデレーションズ杯初戦ブラジル代表戦は、スコア以上の内容で0-3と完敗した。
相手はFIFAランキング22位に落ち込んでいるとはいえ、いまだ選手の能力の突出した最高レベルの国の一つ。勝利よりも敗戦のほうが予想しやすかったのは事実だが、それにしてもあまりになすすべなく90分間を終えてしまった。
パス成功数がブラジル451に対して日本が145と実に3倍もの開きがあることは紹介したが、日本が押し込まれる時間が増えてしまったがために、効果的な攻撃をできないままとなった。
もちろん、コンフェデで戦ったのはまだブラジルとの1試合のみ。イタリア戦に向けてきっちり修正する「可能性」はあるし、イタリア戦、メキシコ戦で好勝負を見せる「可能性」もゼロではない。
ゼロではないが、やはり強豪チームに押し込まれてしまえば、ダブルボランチから前戦にゴールを向いたボールが供給されない、2列目に入った香川真司がPAに近いエリアでプレーできない、といったシーンばかりとなるだろう。
こういったシーンを見るにつれ、2010年W杯南アフリカ大会がそうであったように、世界と戦うために今の日本代表に必要なのは「アンカー」ではないか? という考えが日に日に増している。
■10年W杯で阿部勇樹が魅せたアンカーの貢献度「2010年W杯の輝きよもう一度」という感傷的なものではないし─
前のエントリーで紹介したが─今回参加している各チームが第1戦に関しては4-4-2や4-3-3で戦っているように、アンカーを置く戦い方は主流ではないかもしれない。しかしそれでも、やはり、「対アジア」ではなく「対世界」のとき、日本にはアンカーがいるほうが攻守にプラスになるのではないかと考えられる。
10年W杯でその役目を担ったのは阿部勇樹だった。
アンカーを「守備専門のMF」と認識している方は多いと思うし、それ自体は間違いではない。ただ、アンカーを置くことが「守備的」であるかといえば、そうではない。
アンカーを一枚置くことで、他のセントラルMF、日本代表でいえば遠藤保仁と長谷部誠がより前で、より攻撃的にプレーできることは10年W杯で見せたとおりだ。本来は二人(遠藤、長谷部)だったダブルボランチ=守備的MFが一人(阿部)となり、攻守のつなぎをしたことになる。
起用される選手次第ではあるが、守備が下手な選手を起用することはあり得ず、中央で1枚増やせば中盤での守備力は当然ながら増す。
ブラジル戦での失点シーンを思い返してほしい。
ネイマールのボレーシュートはそれ自体確かに素晴らしいものだったが、ネイマール自身はほぼノープレッシャーでシュートを放っている。後方からは遠藤、手前からは吉田、左からは長友が寄せているが、いずれも間に合わなかった。
パウリーニョのゴールシーンはどうか。
ここもPAライン近く、ゴール真正面の位置にいたパウリーニョはフリーでシュートを放っている。手前には吉田がいたが、シュートには間に合っていない。視野を遮る効果はあったろうが、やはりシュート自体はノープレッシャーで放っている。
どちらも単純には開始直後、エンジンがかかり切る前に瞬間的に決められた一発だが、DFとMFの間にもう一人いれば……というわかりやすいシーンだった。
■より攻撃するための「守備専門家」アンカーを置くことは守備のためだけではない。前述したようにアンカーがいることで他のMFがより攻撃的に動ける。さらに左右のSBも攻撃参加がしやすくなるメリットがある。日本は現在、右に内田篤人、左に長友佑都とビッグクラブで活躍するレギュラーSBがおり、その攻撃力は武器の一つ。しかし現状では相手が強豪国であればあるほど、守備に回る時間が長くなってしまったり、責め上がった裏を突かれてピンチを招くシーンは幾度もあった。
アンカーを一人置いておけば、攻撃参加したSBの裏はその選手がカバーできる。当然、その選手には危機察知能力と全体をカバーする豊富な運動量が求められる。並大抵の選手がこなせるポジションではなく、そういった意味で阿部が10年W杯ベスト16に果たした貢献度は非常に大きかった。
そして今、自分はこのポジションに、今野泰幸を推したい。今野はユース年代の日本代表ではボランチを務めてきたが、代表でCBにコンバートされて以来チームでもCBとして起用されている。
今野の最大の特徴は今も昔もボール奪取の能力の高さにある。相手チームの攻撃の展開を見極め、危ない場面を察知して壁に入る、ボールを奪う。そんな今野を一つ前で使えれば、より攻撃に移る展開も早くなり、相手ゴールに近づくこととなる。
今野は体を張ってぶつかり合うこともできるし、周囲の様子を見ながらバランス、フォローをする動きもできる選手だ。CBとしても頼りになる選手ではあるが、最もその特徴が生かせるのはCBより一つ前ではないか、とかねてから思っている。
奪ってからの展開力という点では、10年W杯のときの阿部よりも劣るだろうが、両サイドが攻めあがれるなら無理なパスを通す必要はない。内田、長友をしっかり使った攻撃ができれば、自ずと本田圭佑、香川真司らはよりゴールに近い位置にいるはずだ。
ゴールに遠い位置で香川が突っかけて獲られたり、前を向けずにバックパスをする、というシーンも減るのではないだろうか?
と、ここまで書いた「アンカーシステム」だが、やはりアルベルト・ザッケローニ監督率いる日本代表で用いられる可能性は非常に少ないだろう。ということから結局は妄想の域を脱することはできないが、妄想してしまうぐらい、ザックの采配に危うさを感じている。
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